先日、精華町に用があり、そのついでに奈良まで行ってまいりました。
お目当ては『白玉屋榮壽』さんの「みむろ最中」と、今回ご紹介する『toi 印食店』さんのターリー(インドの定食)です。
こちらを知ったきっかけは、いつも楽しく拝読しているキロクマニア (id:kiroku-mania) 様の記事でした。
大のカレー好きの私。こんな美味しそうなレポを見ましたら、いてもたってもいられない!
奈良に行く機会をずっと伺っていたのです。
toi 印食店
到着したのは開店五分前。たくさんの方が並んでおられました。
お名前とお電話番号を書いて、順番待ちをすることができます。
時間ちょうどに開店。一巡目に入ることはできませんでした。
店員さんが「12時15分ごろから席が空くと思います、またお電話を差し上げます」とおっしゃったので、先に『白玉屋榮壽』さんへ。ぶらぶらと観光しつつ戻ってくると、ちょうどよいお時間でした。
二階のお席にご案内いただきました。
メインのターリーは、好きなカレーを選ぶことができ、その数に応じてお値段が変わります。
「Curry3種+本日のおかず」をお願いしました。
美しく並んだ、色彩豊かなお料理たち。どれからいただこうか、迷ってしまいます。
中でもアツアツのうちにいただきたいのが、このドーナツのようなもの。「揚げたてですのでお早めにどうぞ」と書いておられます。
お豆の風味にハーブの香り、サクサクと軽い食感。お野菜のソースをつけて食べるととっても美味しいです。
サラダの黄色いのは青マンゴーかしら?シャキシャキしていて、パクチーによく合います。
奥のRasamは酸っぱ辛いスープでした。
続いては本日のカレーから選んだ二つ。
お写真のピントが合っていなくて申し訳ありませんが、どちらもとっても美味しかった!
牡蠣のカレーは、口に含んだ瞬間に牡蠣の香りと旨みをぶわっと感じます。ここまで海鮮の強いカレーは初めていただきました。もはや和食のお出汁のよう。
大きな牡蠣がみっつも入っており、その身はとろけるような柔らかさでとても美味しいです。
お肉の中で羊肉が一番好きな私。マトンキーマは絶対に頼むと決めていました。
いただくと、羊特有のクセはありつつも、弾けんばかりのハーブの香りに驚かされました。脂っこさはなく、すっきりとしたキーマカレー。その風味の複雑性、伝わってくる丁寧さ、じんわりとくる辛さ、全てが美味しいです。お野菜とお豆の甘みがベースにあるのを感じます。
もう一つ選んだのがベジタリアンカレー。
夏野菜の甘みが際立っています。お茄子とトマトがとろとろ。
私はおうちでお料理する際、野菜の甘みを如何に引き出すかを試行錯誤しております。このカレーをいただいて、「私はこれを目指していたんだ!」という気持ちになりました。
その手前のスープは辛くないものでしたが、やや苦味があり、食べ慣れなさを感じました。
そして最後にご紹介するのが、この日一番感動した「じゃがいもの炒めたやつ」です(お名前不明)。
ほっくりとしていて、スパイシーなのに辛くなくて、なんと申したらよいのでしょう、とにかく「美味しい!!!」のです。
あまりの美味しさに、口に手を当てしばらく固まりました。
はっと正気を取り戻して食事に戻ったのはよいのですが、この「じゃがいも炒め」、何が入っているのか全く分からないのです。
細切りにされたシャクシャクのものは人参…?まとわりついているペーストは一体なに…?お野菜の甘みが強いけれど、旨みとコクもある。動物性のなにかも入っているのかしら…?
まじまじと見ながら食べ進めますが、皆目検討もつきません。知りたい気持ちがどうにも我慢できなくなってしまい、ご迷惑を承知で店員さんに声をかけました。
「お忙しいところすみません。このじゃがいもがあまりにも美味しくて。何が入っているか、教えていただけないでしょうか」
「どうでしょう、少々お待ちを」
間もなくして、店員さんが戻ってこられました。
「こちらシェフです」「どうも」
なんてことでしょう、こんな人気店で「ちょっとシェフ呼んで」をやらかしてしまいました。
大変に恐縮しながら、じゃがいもに本当に感動したこと、何が入っているのかお聞きしたいことをお伝えしました。
こちら、粗く削ったココナッツとニンニク、少しの玉ねぎ、あとはスパイスをじゃがいもと炒めたものだそうです。動物性のものは一切入っておらず、それなのにここまでの旨みを出しておられるとのこと。
材料、組み合わせ、そして調理の全てが噛み合った、お料理の妙を感じました。
ご親切に教えていただいたことに感謝を申しますと、「おかわりされますか?」と。
シェフ自ら持ってきてくださいました。
「このXXX(名前は分からなかった)と一緒にごはんにかけて、潰しながら食べていただくとめちゃ美味いっす!」
そのようにいたしますと、なるほど、先程までよく分からなかった苦いスープが、とってもいい仕事をしてくれます!
スプーンで潰しつつ、ごはんと混ぜていただくじゃがいもは、また違った美味しさ。
ふと「他のカレーも組み合わせてみようかしら」と思いつきました。
スリランカカレーなどは「混ぜながらいただくもの」だと思っておりますが、こちらのカレーは単体で食べても十二分に美味しいので、そのまま無心で食べておりました。
「でも、もしかしたらまた違った味わいがあるのでは?」と、残っていたカレーとスープを思い切ってごはんの上に。まだらになったごはんを少しずつ混ぜながらいただいてみます。
すると、味の不均一性、一口ごとに変化していく感じがとてもとても美味しい。牡蠣と羊なんて自己主張の強い素材同士、どうしたって合わなさそうなのに、不思議と喧嘩していません。
この包容力こそがカレー!! なんて面白い食べ物なのでしょう。
上手く表現できる自信がないのですが、スパイスやハーブには、個々の素材のコアとなる味わいだけを残して「飼い慣らす」ような能力があるように思います。飼い慣らされた食材同士は、野生では絶対共存しない組み合わせでも、仲良くできるようになるのです。「猫と鳥を一緒に飼う」ようなことを可能にする、それがカレーという食べ物の魅力なのではないでしょうか。
途中でごはんをおかわりしたこともあり、お腹がはち切れそうになりながらお食事を終えました。
しかしながら、体に悪いものを入れた感じが全くありません。食後のお口の中も爽やかな香りがして、ギトギト感は皆無です。きっと乳化が大変にお上手だからだと思います。
全身が喜んでいるような感覚。「滋味深い」とは、まさにこういうことをいうのですね。
こんな記事を書いていますと、あのお味が恋しくて仕方がなくなってまいりました。またこちらに伺うために、奈良駅に降り立つ日はそう遠くない予感がしております。
こちらのお店は、ミシュランビブグルマン、食べログ百名店に選ばれています。