ここのところ蒸し蒸しと暑い日が続き、本格的に夏が来たと感じます。
まさに今この季節、ご紹介したいのが『老松』さんの「夏柑糖」です。
夏みかんをくり抜いて、中の果汁を寒天と合わせ、皮に戻して冷やし固めたシンプルな涼菓。
かつては初夏の手土産の定番で、いただくことが多かったというこちら。母の強い思い入れは私にも受け継がれ、毎年この時期になると「食べなくちゃ!」という気持ちになるのです。
有職菓子御調進所 老松 北野店
『老松』さんといえば「有識菓子」。有識菓子とは、朝廷の儀式や典礼の際に献上されるお菓子のことです。
当主の家系は平安時代の宮廷祭祀官の流れを汲み、古来より朝廷に伝わる有職故実にもとづく儀式・典礼に用いる菓子、茶道に用いる菓子を手がけてきたことから、屋号を有職菓子御調進所としております。
いつもは大丸さんで購入するところ、今年は折角なので、北野の本店に伺いました。
こちらは天神さん(北野天満宮)のほど近く、上七軒のど真ん中にございます。
こちらにありますように、上七軒は「京都最古、第一の遊里」。花街らしい街並みは、祇園によく似ています。
お店に入りますと、まず目に留まるのが代表銘菓の夏柑糖。
初夏らしい、爽やかなラインナップです。
松風が丸い!桃が入っているというのも珍しく、気になります。
お取り置きしていただいていた夏柑糖を受け取り、実家にお邪魔しました。
山人艸果 夏柑糖
『老松』さんでは、「果実を使いおつくりした菓子」のことを山人艸果(さんじんそうか)と呼んでおられます。夏柑糖はそのひとつ。
原材料は「夏みかん果汁、砂糖、寒天」のみという潔さ。お日持ちは冷蔵で4日間です。
甘夏ではなく、昔ながらの「酸分の多い夏みかん」を使っておられるそう。
大きく美しいおみかんです。
中には、瑞々しい寒天。
平割あるいは四つ割にしていただきます。
断面に見える筋が寒天ならでは。
繊細な酸味と苦みと甘み。すっきりとして控えめなようで、深みと趣のある味わい。さっくりとした寒天の舌触り。
「そう、これこれ!」と言いたくなるような美味しさです。
「夏柑糖」の魅力は、その曖昧さにあると感じます。
他にも似たようなお品を作っておられるところはありますが、それらはもっと味がはっきりとしているのです。
「酸味!」「砂糖の甘み!」「柑橘の香り!」といった個々の要素は、「夏柑糖」では大して主張してきません。感じられるのは、全てが渾然一体となった、自然のままの素材の瑞々しさです。
人による「加工」の気配を極限まで消し、選び抜いた素材を味わってもらう。食材に極力手を加えず、自然に逆らわないことを美徳とする「和食」の職人技に通ずるものを感じます。
販売期間は四月から七月の上旬まで。本格的に暑くなるころには終わってしまう、初夏のお菓子です。
京都では北野と嵐山の直営店の他、大丸さん、伊勢丹さんで購入が可能です。東京では伊勢丹新宿店でお取り扱いがあるそう。
来年もまた、梅雨前のうんと暑い日を狙って、買いに伺いたいと思います。