このブログを始めたときから、いずれ記事にしようと思っていたお菓子があります。
それが、仙太郎さんのおはぎです。美味しいとか大好きを超えて、「これで育った」と言えるような、私の人生にずっと寄り添っていてくれたお菓子であるからです。
以前書いた、エルヴィスサンドの記事でも触れましたが、うちの実家は二世帯住宅で、私は祖父母に大層かわいがられて育ちました。
祖父は弱いのにお酒が好きで、毎晩少しの菊正宗を飲むのを日課としておりました。普段はおとなしく静かなひとでしたが、笑上戸だったのでしょうか、飲むと顔を真っ赤にしてからからと笑っていたのが印象的です。記憶の中の祖父がなにに笑っていたのかを知る術はもうありませんが、祖父以外誰もお酒を好まない我が家において、私が飲めないながらにお酒を楽しいものだと思うのは、祖父の影響があるかもしれません。その証拠に、祖父のくれる菊正宗のおまけの小さな酒瓶のストラップをいっぱいに集め、お人形たちに酒盛りをさせていたのを覚えております。
そんな祖父のお土産は、祇園に飲みに行ったときは箱寿司、百貨店に買い物に行ったときは仙太郎さんのおはぎ、と決まっておりました。大抵その晩か、翌朝にいただきます。特に翌日が定期考査だったりしますと、おはぎは腹持ちがよいから、と母が申しまして、敢えて朝ごはんにいただいたものでした。
お箱のデザインは当時からずっと変わりません。これより一回り大きいお箱に、あんこときなこを五つずつ、時には桜餅や水無月のような季節のお菓子とともに、いつも買ってきてくれていたのです。
物心つく前からずっと食べ続けているおはぎですが、祖父が亡くなってからは食べる機会が少々減りました。とはいえ定期的に食べたくなるもので、先日街中にでた両親にリクエストを求められて「久しぶりに仙太郎のおはぎが食べたい」とお願いをした次第です。
三人分のきなこのおはぎと、季節の栗むし(栗蒸し羊羹)です。お日持ちはおはぎが当日中、栗むしは翌日まで大丈夫とのこと。人生では購入日の翌日に食べることの多かったおはぎですが、もちろん当日中の方がもち米が柔らかく、美味しくいただけます。
仙太郎のおはぎ きなこ
仙太郎さんには「粒あん」「きなこ」「七穀」の三種類のおはぎがありますが、「きなこ」が一番美味しいと我が家では相場が決まっております。「粒あん」と「きなこ」を並べて二種類同時にいただくのがお決まりの楽しみ方ではありますけれど、この日はアングレディアンの栗のロールケーキも残っていましたので、「きなこ」だけにしたそうです。夕食後にロールケーキと一緒にいただきました。
パッケージを開けた瞬間から、芳醇なきなこの香りが漂い、心が吸い寄せられるように感じます。いただきますと、甘いあんこにもちもちとした食感、たっぷりと混ぜ込まれた青じその香りがきなこの香りと合わさり、そうそう、これが食べたかったの!という気持ちになります。この瑞々しく滑らかなこし餡が大好きで、これが「きなこ」のおはぎが「粒あん」よりも好きな所以です。好きなものは最後に残しておく性分で、周りのもち米の多い部分からぐるりと食べ進め、中央の上下にしかもち米のないところを最後にいただくのが、幾つになってもやめられません。お行儀が悪いのは重々承知しておりますが、それほどまでにこの餡が好きなのです。
こちらのおはぎ、子供のころと比べますと随分小さくなってしまったようにお見受けしますが、その味わいは変わりません。小さくなってしまったのは少々寂しくはありますが、何種類かをいっぺんにいただくハードルが下がることを思えば、ある意味では有難い変化と言えるかもしれません。
おはぎで有名なのは今西軒さんですけれど、思い出補正もあるのでしょう、私はどうにも仙太郎さんのおはぎの方が好きです。ただ近年、これを超える余りにも好みなおはぎを発見してしまいました。大原の志野のおはぎです。こちらについても、近々ご紹介できればと思います。
京都限定の季節の和菓子、栗むし
翌日のおやつに栗むしをいただきました。この日は朝から用事があり家を出ておりましたが、外出中ずっと楽しみにしていまして、帰宅してすぐに熱いお茶を淹れました。
栗と羊羹の食感の違いが楽しい、秋冬の味わいです。この栗の蜜漬けの味の濃いこと!本当に小さな欠片でもしっかりと感じる、純粋な栗の味と香りに惚れ惚れとします。後味までずっと残るような香りの強さ。この栗が分厚くぎっしりとのっているのが、なんとも贅沢で幸せな気持ちになります。羊羹は栗を際立たせるような、ずっしり重めの味わい。一切れがそれなりに大きく、栗も羊羹もしっかりと甘いので、一気にいただきますとかなりの食べ応えがあります。熱いお茶と一緒にちびちび食べるのにぴったりの、重厚な栗蒸し羊羹です。
この栗むし、HPを拝見する限り京都限定のようです。他の地域では渋栗むしとして、渋皮栗と白小豆を使った栗蒸し羊羹を販売されているとのこと。
(画像:渋栗むし|仙太郎 )
こちらも大変美味しそうです。材料を見るに、京都の栗むしの方が甘くて重たいのではという気がいたしまして、京都には甘党さんが多いのかしら、などと妄想してしまいました。12月下旬までとのことで、もうこの冬はいただくことが叶いませんが、また来年機会があれば渋栗むしもお試ししたいと思います。
追記:志野に行ってきました。