先日、こんなハンカチを手に入れました。
『近沢レース』さんの、「桜餅」のタオルハンカチです。
その可愛らしさと遊び心に一目惚れ。ポチっとしてしまいました。
このレースには、二種類の桜餅がデザインされています。
桜餅には関東風の長命寺(ちょうめいじ)と関西風の道明寺(どうみょうじ)があるのをご存じですか?
(中略)あなたはどちらの桜餅がお好みですか?コミュニケーションツールとしてお使い頂ける、楽しいハンカチです。
京都に育った私が慣れ親しんできたのは、もちろん「道明寺」の桜餅。関東風はいただいたことがありません。こちらのハンカチを眺めながら、「長命寺」の桜餅を一度食べてみねばと思っておりました。
御菓子老舗 塩瀬総本家 日本橋三越店
そこで、先日東京に行った際、家族へのお土産を関東風の桜餅にいたしました。
日本橋三越さんの和菓子売り場は、今の時期、そこかしこから桜の香りがいたします。一軒一軒、桜餅を探して回りますと、意外なことに関西風の桜餅も多く見られました。そもそも京都など、関西が発祥のお店も多いからでしょうか。
たくさんある桜餅。どちらのものがよいか分からず、とにかく本店が東京にあって、聞いたことのあるお店を、という思いから選んだのがこちら。
『塩瀬総本家』さんです。桜餅といくつかの生菓子をお持ち帰りいたしました。
お箱には「日本第一番本饅頭所」の文字。
沿革の紙を拝見して、その歴史の長さに驚きました。
貞和5年(1349) 初代林浄因が中国より来日、奈良に住し日本で初めて餡入りの饅頭を作り売り出し紫庭に上がる。
出典:沿革 – 塩瀬総本家
なんと起こりは14世紀。『とらや』さんも形無しです。
日本の「お饅頭」の元祖であり、以来時の宮家や武将の方々に愛されてきたと。古くは京都を拠点にされていましたが、寛政10年(1798)に「京都塩瀬家」が「絶家」してからは完全に江戸に移られたようで、現在も首都圏にしか店舗を出しておられません。
そんな由緒正しいお店だなんて、これはいただくのが一層楽しみです!
箱の中には、購入した生菓子がぴったりと収められています。一つずつご紹介させていただきます。
さくら餅
まずはお目当て、桜餅から参りましょう。
ロールケーキのようにくるりと巻かれたこの姿。そうです、これを食べてみたかったのです!
ねっとりしっとりとした小麦の生地、あえて喩えるとすれば蒸しパンでしょうか。これが、慣れ親しんだ桜葉とこし餡と組み合わされているのが、大変新鮮に感じます。さくりと歯切れのよい食感に「これはお餅といえるのかしら…?」と思ってしまいますが、桜餅の歴史からすればこちらが正統派。
「桜餅」だと思っていただきますと、どうしても違和感を強く感じてしまいますが、和菓子としては美味しく、バランスがとれていると感じました。
本饅頭
徳川家康公に愛されたという、大変歴史のあるお饅頭です。他の生菓子は当日中だったのに対し、これは三日のお日持ちでした。
ただのあんこの塊かと思いきや、金鍔のような薄い皮で包まれています。この皮の薄さは、職人さんの技術の賜物に違いありません。
いただきますと、小豆の香りと旨みがダイレクトに伝わってまいります。最低限の水分量で固められた餡は、滑らかなこし餡と固めの粒あんを混ぜておられるようで、楽しい食感。しっかりとした甘さと蜜感があります。
この固さと水分の少なさは、中世の時代に持ち運びや衛生面での問題がないよう工夫された結果なのでしょう。それが美味しさと両立した結果、四百年以上にわたって愛され続け、私の口に入るに至ったのだと考えますと、なんだかしみじみとした気持ちになりました。
豆大福
「これぞ塩瀬のスタンダード」の謳い文句に引かれて購入しました。
滑らかなこし餡が洗練された味わいで、申し分なく美味しいです。豆大福といえば、の『ふたば』さんの豆餅に比べると赤えんどうの主張が弱く、甘みがしっかりとしているようです。
何よりの特徴は、お餅のしっかり感。「今朝作られて、時間経過で固くなりました」という感じがありありとしました。買った日の夕方にいただいてこれとは、餅米から昔ながらの手法で作っておられるのがよくわかります。旨みが強く、塩気の効いた美味しいお餅で、機会があれば朝一番にいただいてみたいと思いました。
草餅
もう一つ季節の生菓子を、ということで選んだのがこちら。
蓬が香りよい、お上品な草餅です。こし餡はあっさりとしていて、春の軽やかさを感じます。お餅は上新粉をベースにされているそうで、豆大福とは全く異なるねっとりとした食感。
草餅というものは、蓬の苦味ゆえか、甘さ控えめであるように感じることが多いのですが、こちらのものはちょうど良い甘さだと感じました。あんこがたっぷりだからかもしれません。
『塩瀬総本家』さんの生菓子はどれも品良く丁寧に作られた印象を受けました。原材料を見ましても非常にシンプルで、歴史と伝統を大切にしておられるのを感じます。
『榮太郎総本舗』さんのあんこには力強さと勢いがありましたが、それに比べると『塩瀬』さんのあんこは控えめで落ち着いた美味しさで、普段いただいている京都の和菓子屋さんに近いように感じました。
また、東京の和菓子はあんこが主役で、皮が薄いものが多いと感じておりましたが、こちらの豆大福はお餅が主役。ひとまとめにして語ってはならないな、と身の引き締まる思いです。
桜餅の元祖は、向島にある『山本や』さんの「長命寺桜もち」だと言われております。通年販売されている「白い」桜餅という点で、先日ご紹介した嵐山さ久ら餅に通じるところがあります。
やはりこちらをいただかなくては桜餅は語れない!ということで、また東京に行く際、伺いたいと思っております。